ジャルディニエ・キリクイの庭しごと

神奈川で庭づくり・庭の手入れをしているキリクイのブログです。

奏森の庭(2012年施工)

初回プランの概要

奥行きがそれほどない敷地に庭をつくる場合、植栽は敷地に沿って帯状に設けるのが普通です。

今回ご紹介する庭も奥行き3~4mほどで、横に長い敷地形状。その条件に加えて、リビング前のウッドデッキ、立って作業できる水道設備、庭を歩く園路が必要だったので、配置計画はスムーズにまとまりました。

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上の写真は初回提案のプラン。
敷地に沿って植栽帯を設け、リビングルームの前にウッドデッキ、デッキを階段で降りたところに土間と水道設備、その間を縫うようにウッドチップの園路を設ける計画となっています。

園路の素材選び

初回提案はあくまでもたたき台。ここから打ち合わせをして、よりよいプランを作っていきます。

まず考えるべきは、園路をどうするか、でした。

園路の素材選びによって、庭の雰囲気が大きく変わってきます。ウッドチップや砂利を使えば、柔らかで飾らない印象。乱形の石なら、より園路としての主張がありつつ、自然な雰囲気に。方形の石やレンガなど形のきちんとしたものなら、園路の雰囲気もきちんとしたものになります。

このお庭では、最終的にコンクリート平板を使いました。
お客様のご提案によって決めたもので、結果として、コンクリート平板のカチッとした雰囲気と自然風の植栽がお互いを引き立てる庭となりました。
コンクリート平板の園路には、歩きやすいというメリットがあります。また、現場打ちのコンクリート舗装と違い、園路の配置を変えるのも簡単、繰り返し使うことができるなど良い点が多くあります。最初のうちは白く浮いてみえますが、年月の経過によって、庭になじんでくる素材でもあります。

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コンクリート平板をずらしながら並べることで、固い印象を和らげています。平板と平板の間に、ところどころタマリュウの緑を入れているのも、同じ目的です。

ウッドデッキと土間

ウッドデッキは、上の写真でアルミ製の柱が見えている既存の屋根に合わせたサイズとしました。
Kirikui のつくるウッドデッキの素材は、エコアコールウッドです。国産の杉材に特殊な保存処理をしたもので、色や香りは杉そのまま、薬剤の溶出はなく安全、そのうえで、屋外での耐用年数20年以上という優れた木材です。
無塗装でも耐用年数に変わりはないので、今回は塗装なしで素材の色をそのまま活かしています。年月が経つとシルバーグレーに変化してきますが、それもまた味わい深い色です。

デッキを降りたところに水道設備と土間を設けました。

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この土間は、庭土を固めたものです。
酸化マグネシウムを主成分とした土壌固化材を用いて現場の土を固める工法で、土と固化材がミックスされた製品を使うのとは多くの相違点があります。
もちろん現場の土が使えることが一つ。庭土を捨てたり、新たに外から持ち込んだりする必要がなく、環境への負荷が少なくなります。
また、酸化マグネシウム系の固化材は、一般的なセメント系固化材と違い、低アルカリ性で、環境への影響が極めて低く、壊したあとはそのまま土に戻すことができます。

良いこと尽くめのように見えますが、この土間づくりは結構手間がかかります。
まずは庭土をふるいにかけて、根っこや石などを取り除きます。
土の状態を見て、粒子が細かすぎるようであれば、砂を足してやります。解説できるほどの科学的根拠を知らないのですが、こうすると土間の仕上がりが良くなります。
この庭土に酸化マグネシウム系固化材をよく混ぜあわせます。枠を作って、敷き均し、叩き締めていきます。ここで重要なのは、水加減とよく叩き締めること。特に水加減は一回一回が真剣勝負です。
仕上げに角を落として、柔らかな印象になるようにしました。あらかじめ角を落としておくことで、欠けるのを防止するという目的もあります。

こんなふうに手間をかける土舗装は贅沢なものかもしれませんが、土ならではの優しい風合いがあって良いものなので、機会があればぜひご検討いただきたい工法です。

植栽スペースに盛土をする

植栽スペースは土を盛って、やや高くしています。

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こうすることで、庭に起伏ができて、変化が生まれます。水はけのあまり良くないような場所であれば、植物の生育にも良い影響を与えます。

庭工事をすると土が出ます。このお庭では、園路をつくるために表土を削ったため、それなりの量の土が出ました。
こうした工事に伴って発生する残土を、安易に処分するのではなく、できる限り、庭の中で処理するべきだと僕は考えています。
植栽スペースの盛土には、実は残土の処理という目的も隠されています。

盛土をすると、土が流出しないよう土留めを検討しなければいけません。
土留めにはさまざまな方法がありますが、今回は、自然石を要所に配し、それ以外の場所は法面(斜面)にして、宿根草や低木に土が流れ出るのを防いでもらう計画にしました。
石は、木曽石を使っています。木曽石は岐阜県で採れる花崗岩で、平らな面や角が多い形状を活かして、石積みや縁石などに多用されます。黄褐色で明るい印象ながらも、派手すぎず、ほどよい落ち着きがあって、現代の庭によく合う石だと思います。

自然風の植栽

植栽した樹木は、イロハモミジエゴノキ、ソヨゴ、ナツツバキ(のちにヤマボウシに変更)、アオハダ、ツリバナ、アセビ、クロモジ、サンショウ、ナツハゼ。

落葉樹を中心にした、四季の移ろいを楽しむ植栽です。
落葉樹は冬の景色が寂しく、セオリーではもう少し常緑樹の割合を多くするものとされますが、落葉樹の持つ魅力を存分に感じられる植栽構成としました。四季折々の風景を楽しむことができますが、何と言っても、芽吹きの頃と紅葉の頃がこの庭のハイライトかもしれません。

庭に蝶を呼びたいというご要望があったので、サンショウを植えています。今では、アゲハチョウなどが遊びにきてくれています。

どうしても常緑樹を植えたい場所があったので、そこにはソヨゴを植えました。ソヨゴは常緑樹の中では比較的軽やかな印象で、黄緑色の新葉は美しく、赤い実も楽しむことができます。キンモクセイやヤマモモでは重すぎる、シマトネリコでは軽すぎる、そんなところに最適の常緑樹です。

下草は、ギボウシイカリソウ、フウチソウ、リョウメンシダ、アマドコロ、シラン、ヤブラン、ハラン、ヤブコウジツワブキ、キチジョウソウなど、こちらは夏緑多年草と常緑宿根草をバランスよく混ぜています。

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 植え付け直後の庭は、ご覧の通り寂しいものでした。
3年目くらいから樹木がぐぐっと枝葉を伸ばしはじめ、下草類は株分けが必要なくらい大きく成長して、今では自然の美しさや強さを感じられる庭になっています。

引き続き、剪定や株分け、移植などをしながら、じっくり庭を育てていきたいと思っています。

お客様の感想をうかがいました

東京都・M様

Kirikui の佐藤さんの作ってくれた庭はとても魅力的です。
建築家や有名人のお庭などを雑誌から切り取り、「こんな感じがいいです!」とお伝えしましたが、佐藤さんと話をすればするほど、お任せして大丈夫という気がしました。
冬になるとほとんど枯れてしまうのでびっくりしましたが、春の喜びが大きく、義理の母も楽しんでいます。
写真は出来立てのころのものですが、今はもっと落ち着いていいですよ。最近の写真も載せてくださいね!

2016年9月

 

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