お気に入りの風景
あなたのお気に入りの風景は?
誰しもお気に入りの風景というものがあると思います。幼いころに見た故郷の景色だったり、いつか旅先で見た景色だったり。目を閉じてその風景を思い浮かべるだけで、緊張がほぐれ、体の奥からポジティブなエネルギーが満ちてくるような、そんな景色。
僕の場合は、都心のビルを背景にした新宿御苑の木々と芝生、水が張られたばかりの初夏の田んぼ、八ヶ岳の山々とその手前に広がる牧草地。普段は猫背なのに、この風景をイメージすると自然と背筋が伸びます。
みなさんのお気に入りの風景はどこでしょう? 家族や友人と話しあったら、意外な一面を発見できるかもしれませんね。
原風景と庭
風景ことを考えていて思い出したことがあります。駆け出しの頃に庭づくりの依頼を受けたときの話です。
ヤマボウシやツリバナなどの落葉樹を中心に構成した植栽プランを提案したのですが、気に入ってもらえませんでした。冬に葉が落ちてしまうことを気にしているようでした。僕は冬枯れの景色があればこそ春の訪れがドラマチックに感じられると思っていたので、そのことを話し、このプランを採用してもらうよう説得を試みましたが、ダメでした。
あらためて話を聞いてわかったのは、その人は沖縄の出身だということでした。生命力あふれる緑こそが大事だったのです。
植栽プランは一から作り直し、首里城の建築材として使われているモッコクや、耐寒性はあるが南国を感じさせる植物ーーシマトネリコ、ヤツデ、斑入りのアオキなどを植えることにしました。
人の内面に刻み込まれている風景の力は大きいということを学んだ出来事でした。
庭をお気に入りの風景にする
自宅の庭を、お気に入りの風景の一つに数えることができたら幸せだと思います。
思い出の風景はヒントになるかもしれませんが、必ずしもそれを庭に再現する必要はありません。家族全員が同じ風景を思い描いているとしたら素晴らしいけど、そんなケースは稀だし、夫婦で植えたい植物が違うなんて当たり前です(この場合、8割の確率で奥様の意見が採用されますが……)。
そうなると必要なのは時間です。庭を持つことができたら、そこが自分と家族の居場所だと心から思えるようになるまで、年月をかけて育てていく。「時短テク」も「楽ちん裏ワザ」もありません。地道に手間をかけ続けることが、庭をかけがえのない場所にしてくれるのです。
庭師として、そういう庭づくりの手伝いができたら最高だと思います。