ジャルディニエ・キリクイの庭しごと

神奈川で庭づくり・庭の手入れをしている小さな会社、キリクイのブログです。

コピシングについて

英国のガーデニングテクニック

ガーデニングに「コピシング」という技術があります。
地面に近いところまで枝(幹)を切り戻すことで、英語のつづりは、“coppicing”。
イギリス人のガーデナーの方が紹介して以来、日本でも広く知られるようになりました。

樹木の中には、一度にたくさんの枝葉を失うとそれを急いで再生しようとする性質(とその能力)を持つものがあり、そうした木を強く切り戻せば勢いのある枝が伸びてきます(その枝につく葉も大きくなります)。また、地際で伐採すると、切り株からまっすぐで勢いのある幹が何本も立ち上がってきます。コピシングはこの性質を利用したもので、ボリュームある木姿と立派な葉を楽しむことを主な目的として行われます。

宿根草の花壇の中に、本来は高木となる葉の美しい樹木(前述のイギリス人ガーデナーによれば、たとえば紫葉のスモークツリー、銀緑色の葉がきれいなユーカリ、赤い幹が鮮やかなサンゴミズキ、ピンク色の新芽が印象的なネグンドカエデ ‘フラミンゴ’ など)を植え、コピシングをして美しい葉(あるいは幹)をシュラブ状に茂らせることで、周りの宿根草の花と調和させ、ときにはコントラストを生んで植栽全体の印象を深める。さすがにガーデニング大国・イギリスだなあと思います。 

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ネグンドカエデ ‘フラミンゴ’


コピシングはもともと、イギリスの人々が生活に必要な木材を得るために行なっていた技術で、コピシングによって得られるまっすぐで長い枝を収穫し、薪やフェンス、日用品などに利用していました。イギリスでは、切り株から再生させた木で構成される林をコピス(coppice、copse)と呼ぶそうで、コピシングという言葉は、ここからきているのでしょう。

庭におけるコピシングは、生活のための技術をガーデニングに応用したものだと考えられます。
ピーター・ハーパーというイギリス人が書いた『ナチュラルガーデンブック』という本には、木を地面に近いところで切り戻し、切り株から発生する枝を庭のフェンスやカーペット(これは何のことでしょう?)などに利用する方法が、「何年間も木材を生産しつづける、持続可能な森林資源です」という言葉とともに紹介されています。生活の技術としてのコピシングを庭に移入した例だと思われますが、コピシングの文字は見当たらず、「低林の“椅子”」という謎の訳語があてられています。この「低林」はコピスを指しているのかもしれません。「椅子」は切り株の形容でしょうか。原文がないので、推測することしかできませんが……。
ともかくこの「低林の椅子」をより洗練させたかたちが、いわゆるイングリッシュガーデンで用いられるコピシングなのだと思います。

 

コピスと里山の雑木林

コピシングはイギリス固有の技術というわけではなく、日本でも昔から行われています。

たとえばクワ畑。地面から数十cmのところで切り戻し、勢いよく伸びてくる枝から葉を収穫します(樹高が低いから収穫しやすいというメリットもあるようです)。といっても、今では身近なところにクワ畑があるところは少なく、すぐにクワ畑の光景が頭に浮かぶ方は多くないかもしれません。僕も実物を見たのは、史料館として開放している古民家に、おそらく養蚕の解説用につくられた小さなクワ畑くらいしかありません……。

coppicing(コピシング)を、日本語に翻訳するなら「萌芽更新」という言葉が当てはまります。「萌芽」とは芽が出ること、またその芽で、「更新」は、植物に関して使う際には、新しい世代の木や森林を育てることを指します。つまり、切り株から出てくる新しい芽を育てて、その木やそれを含む森林の再生を図るのが「萌芽更新」です。

萌芽更新による森林再生を繰り返してきたのが、イギリスなら前述のコピスであり、日本ならいわゆる里山の雑木林ということになります。

木材を得るために日本人もイギリス人もコピシング(萌芽更新)という技術を利用してきた歴史を持っていますが、イギリス人はその技術を、庭のボーダーの中で高木を宿根草と同じように扱う技法として応用しました。それが良いとか悪いとか言うつもりはありませんが、とにかくイギリス人の、庭園という理想郷づくりにかける情熱の大きさには感嘆させられます。

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コピシングとポラード

コピシングと同じ原理を利用した技術に「ポラード」仕立てというのがあります。
ポラードとは、高い位置(たとえば地上から2mくらい)で伐採して萌芽更新が行なわれている木を指し、その技術は、一般的な切り株からの萌芽更新(コピシング)と区別して、「頭木更新」「台株更新」などと呼ばれます。日本でもこうした更新方法を採用していたとみられる木が各地に残っています。台株更新を行なった理由については、鹿などに新芽を食べられないようにするため、豪雪地帯においては雪上で伐採するためなどの説明がなされていますが、地域によってそれぞれ固有の理由があるのかもしれません。

太い幹から4~5本の細い幹が立ち上がっている独特の樹形の杉が日本庭園に植えられているのを見かけることがあります。これは「台杉」と呼ばれ、もともと丸太材を採るために台株更新されていた杉が、観賞用に利用されるようになったものです。杉のポラードと言って良いかと思います。

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サルスベリの「こぶし仕立て」「げんこつ仕立て」などと呼ばれる仕立て方も、ポラードに近いかたちと言えそうです。強く切り戻すと勢いのある枝が伸びて花も大きくなる性質を活かし、その年に伸びた枝を毎年冬にすべて切り取る剪定をします。毎年同じところで切り戻していると、その部分が握りこぶしのような形になるため、前述のような名で呼ばれます。これは樹形の美しさよりも、大きな花を期待して行う剪定方法です。

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毎年同じところで剪定して、枝先が握りこぶしのようになったサルスベリ

 余談ですが、サルスベリのように夏~秋にかけて花を咲かせる木は、その年の春から伸びた枝に花芽をつけると考えてほぼ間違いはなく、春先に前年の枝を全部切ってしまうような剪定をしても、その剪定が原因で花が咲かないということはありません。

サルスベリ同様、夏の花木であるムクゲやフヨウなどは、コピシングで樹高を低く抑え、花を視線に近いところで楽しめるようにすることがあります。たとえば、茶花にムクゲを使うという方のお庭では、樹形の美しさよりも、手が届く位置に花を咲かせることを重視して、低く切り詰める剪定をしています。 

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 ムクゲの花

 

庭木を萌芽更新によって仕立て直す

花や葉を楽しむためではなく、一から仕立て直す目的で庭木をコピシング(萌芽更新)をすることもあります。

ひとつ実例をご紹介いたします。
大きくなって庭の日当たりを悪くしていたカシの木がありました。そこで、地面に近いところで伐採し、新しく出てきた芽を育てることにしました。

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上の写真は、伐採したときのものです。地面に近いところで幹をすべて伐りました。作業は3月に行ないました。

 

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その年の冬の様子です。切り株やその周囲からたくさんの枝が伸びてきました。高さは50cmくらいでしょうか。

 

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翌年の冬の様子です。高さは1mを超えました。たくさん出てきた枝の中から、勢いがあり、なおかつ良い方向に伸びているものを残し、弱い枝や重なっている枝は間引きます。

 

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4年目の様子です。人の背丈を超える高さに成長しました。

萌芽力のある木を選べば、コピシング(萌芽更新)により、株立の木として再生することが可能です。

(追記:地際の幹の直径が10~20cmのときが、もっとも萌芽本数が多いというデータがあります)

 

コピシングを行う前に

地面付近で伐採した切り株から、新しい芽がぐんぐん伸びてくる様子は、植物の生命力を感じさせてくれます。コピシングは、木とつきあう方法のひとつとして、とても面白いものだと思います。

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ただし、コピシングのような特殊な剪定は、樹種と目的をはっきりさせたうえでを行うことが大切です。

地際で伐採したり、太い幹や枝を伐ったりすることは、木に大きな負担をかけます。コピシング(あるいはポラード仕立て)は、そういうストレスに強い木を選び、そのストレスを上手に利用する技術です。むやみにやれば、木を弱らせてしまうこともあります。

コピシングに最適な時期は、芽吹きの直前の時期です。樹木が体内に蓄えているエネルギーはこの時期がもっとも多く、またすぐに活動が始まるので、切り口の回復も早いと考えられます。