ジャルディニエ・キリクイの庭しごと

神奈川で庭づくり・庭の手入れをしているキリクイのブログです。

「ジャルディニエ」という職業

庭師か植木屋か造園家か

独立してこの仕事を始めてからずっと、自分の肩書きを何にするか決めかねていました。

「植木屋さん」は親しみやすくていいのですが、庭をデザインする仕事のイメージがない。「造園家」や「ガーデンデザイナー」は庭を作る人であって、自分でハサミを持って手入れするイメージはありません。「ガーデナー」はやっぱり英国式庭園の庭師で、しかも職業としては特定の庭園に専属で携わる職人でしょう。「ランドスケープデザイナー」「ランドスケープアーキテクト」はもうちょっと規模の大きい設計をやる感じ……。

決めきれないまま、場当たり的に都合の良い肩書きを名乗ってきましたが、ここ最近は「庭師」としていました。庭をつくり、手入れもする、そういう意味では一番近いし、お客様から「佐藤さんは庭師って感じね」と言われたことも理由の一つです(こう見えて、人の意見を素直に聞き入れるんです)。

ただ、「庭師」という言葉が背負っている歴史や伝統を考えると、僕が名乗るのはちょっと後ろめたい。いわゆる日本庭園をつくり手入れをする「正統な」庭師がいるはずで、だとするならば、僕はその経歴から見ても自分をアウトサイダーと認めざるを得ません。

「ジャルディニエ」の発見

「ジャルディニエ」(jardinier)は、フランス語で「庭師」を意味する言葉です。聞きなれない言葉ですが、菓子職人の「パティシエ」を思い浮かべれば、受け入れやすいのではないかと思います。「jardin(ジャルダン)=庭」の職人です。

僕は今、肩書きを「ジャルディニエ」としています。
と言っても、フランス式の庭園をつくるわけではないですし、フランスと深いかかわりがあるわけでもありません。

僕が「ジャルディニエ」に興味を引かれたのは、その言葉が日本では一般的ではなく、あれこれとイメージがついていないという点でした。これをいいことに、「ジャルディニエ」を勝手に定義して使うことにしました。これならしっくりくる肩書きになるはずです(何しろ自分で定義するんですからね)。

あくまでも「勝手に定義」なので、フランス語の「jardinier」がどんな意味やイメージを持つかということとは関係がないことを付け加えておきます。

「ジャルディニエ」とは

ジャルディニエは、庭づくりと庭の手入れを仕事とし、人と自然の間に立って、その仲立ちをする職人です。
ジャルディニエが仕えるのは庭の精霊たちであり、彼らの力を借りて庭という空間をつくる職能の者を指してジャルディニエと呼びます。
草木や虫などあらゆる生き物に敬意を払い、石や土のように生命を持たないとされるものも生き物と同じように扱うのが、ジャルディニエの流儀です。

ひとまずこんなふうに「ジャルディニエ」を定義しています。

実を言うと、これは僕の考える「庭師」の定義そのもので、日本とかヨーロッパとか関係なく、かつての人類が共有していたはずの世界観(自然観)がベースにあります。農耕・牧畜の拡大、一神教的な神様の出現、自然科学の発展などによって、こうした世界観は表舞台から姿を消していきますが、日本の庭師たちは、どういうわけか、この古い古い世界観をその伝統の中に保存してきた――、僕はこのように考えています。
だから、「ジャルディニエ」の定義は、庭師の伝統を背負う立場にない僕が、誰に求められるでもなくその伝統に向き合い、庭師とは何者かという問いに対して出した暫定的な答えだとも言えます。
この先、仕事を重ねながら、その仕事によって僕なりのジャルディニエ像をより具体的に描いていけたらいいなと思っています。

「ジャルディニエ」という職業の発展に、どうかお力添えを賜りますよう心よりお願い申し上げます。

 

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